『壱拾弐』





















【楓】























小鳥のさえずりが聞こえてくる。
明るい。
暗闇の中から一気に日の光の元へ引きずりだされてかのようだ。
まぶたの向こう側に明るい世界が展開されているのだ。
体がズキズキと痛む。
いったい、何があったんだ。
思い出せない。
1度だけゆっくりとまぶたを開けようとした。
眩しい。
光を遮るために手をかざす。
それでも眩しかった。
ぼんやりと視界がハッキリとしてくる。
ぽっかりと木々の間に青空が見え、そこから日の光が差し込んでいる。
木々の葉がサワサワと揺れている。
そして、自分のすぐ側に1人の少女がいた。
私の顔を覗き込んでいる。

「イリス」

私は少女の名前を呼んだ。
無事だったんだ、良かった。
自分の事よりもイリスの事が心配にだった。
私はイリスの頬に触れた。
イリスは静かに目を閉じた。
何を、思っているのだろう。
私はそう考えてからすぐにハッとなった。
そうだ。この娘は……

「か……、えで」

イリスが頬を触れる私の手に自分の手を重ねた。
今、私の名前を呼んだ?

「楓」

次は、ハッキリと私の名前を呼んだ。
私は、起き上がって思わずイリスを抱きしめた。
木々がサワサワと揺れ、風が私達を優しく撫でた。
私の胸の中で、イリスのすすり泣く声が聞こえてきた。























【ゲーデ】























私は闇の中にいた。
懐かしい、限りなく無に近い空間。
ここでは全てが恐怖で、恐怖が全てだ。
その中心に、全ての闇を照らしてしまいそうな真っ白な気配があった。
それはゆらゆらと揺らめき、今にも消えてしまいそうだった。
それは私を安心させた。
それは私の半身でもあった。
私は闇の中でその真っ白な気配へと手を伸ばした。
そうする事がまるで自然な事でもあるかのような気がする。
あと少しで手が届きそうになったその時。
上空から垂直に青白い1本の線が降った。
青が白を、切り裂いた。
2つになった白は一瞬だけ奮え、だんだんと薄れていく。
私はさらに手を伸ばした。
消えさせて、なるものか。
私がそれに触れる直前。
白は闇に溶けた。
私の手が白のあったはずの場所の闇を握る。
拳を何度も開閉させる。
しかし白は手の中にない。
叫び声が聞こえる。
五月蝿い。誰が叫んでいるのだ?
私は中々気づく事ができなかった。
叫んでいるのは自分だと言う事に。























【ソロネ】























憎い。
黒が、闇が憎かった。
アイツは全てを焼き払い、全てを食らい尽した。
負の感情が私を取り巻いてゆくのがわかる。
それは酷く嫌だった。
しかし、もう止まらない。
アイツだけは何があろうとも……
自分の顔の右半分を手で覆った。
ここにも闇が。
自然と指に力が入っていた。
額から血が流れる。
そんな事はどうでも良かった。
ただただ憎しみに全てを任せよう。















負の感情が私を取り巻いてゆくのがわかる。
それもまた、心地よい。
























【月影】























組織シュバルツバルト。
ヤツラはの狙いは【Pandora's box】(パンドラの箱)。
つまり、私もだ。
ヤツラが何の為にこれを狙っているのかはわからない。
だが、私は壊さねばならない。
アイツが作った【Pandora's box】を全て。
アレはこの世にあってはならない。
【unfamiliar】を生み出し、引寄せる忌々しい力を備えた物。
一体、いくつあるのかはわからない。
だが、全て破壊する。
私という存在が消えるまで。
誰を犠牲にしようとも構わない。
しかし……
私は酷く悩む。
確かに【Pandora's box】を破壊する為には手段を選ばないと思っている。
しかし……
楓よ。
何故私を拾ってしまったのだ?























【イリス】























小鳥のさえずりが聞こえる。
小鳥。
つい先程まではこんな単語もわからなかっただろう。
今私が誰なのか、何の為に存在するのかはわからない。
目の前の楓のまぶたが動いた。
私は今、何をすべきなのかだけはわかった。

「イリス」

楓が言った。
この名前は私の名前。
楓がつけてくれた私の名前。

「か……、えで」

上手く話すことができない。

「楓」

今度はハッキリと言えた。
楓は上半身だけ起き上がると、私を抱いた。
私は顔を楓の胸の中に埋める。
温かい。
信じられないほどに温かい。
自然と涙が溢れてきた。
楓の服に涙を擦り付けながら私は声もあげずに泣いた。
イリス……
楓が付けてくれた名前。
イリス……、虹の女神。











今やらねばならない事。
それは、生きる事。











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